集客の『仕掛け』を考える 【後編】
2022.08.29前回の「仕掛学×展示会①」コラムでは、そもそも「仕掛学」とは何なのか、そして、その考え方の中で、展示会に活かせそうな部分はどこなのか、ということについて、簡単に説明をさせて頂きました。今回は、実際に仕掛学に関連して発表された論文を1つご紹介しながら、展示会で効果の上がりそうな『仕掛け』について、考えてみたいと思います。
まず、今回ご紹介するのは、『仕掛けによる試食促進の試み』という、 2017年度人工知能学会全国大会にて、大阪大学経済学部・大阪大学大学院経済研究科の方によって発表された論文です。全文は下記URLから読めます。
『仕掛けによる試食促進の試み』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2017/0/JSAI2017_4B1OS23a2/_pdf/-char/ja
こちらの論文内では、パン屋さんの店頭での試食販売に関して「試食を終えた後の爪楊枝を使って、どちらのパンが美味しかったか投票してもらう」という仕掛けを作れば、試食率が上がるのではないか、という仮説について、実験を通じて検証を試みています。
この方法を選択した理由として、
①人気投票は消費者の関心を高めるコンテンツである
②投票することで店に貢献できるので、
試食したら買わなければならないというプレッシャーが軽減される
③既に投票済みの爪楊枝があれば、
自分より先に試食した人がいたことがわかりハードルが下がる
といった点(他にも、方法が煩雑でなく、時間もかからない等といった条件)が挙げられています。そしてまた実験を通じて、この方法は試食の促進に効果的であるということが示されました。実際に「仕掛け」の存在が人の行動を変える、ということが具体的に実感できる良い例だと思ったため、今回コラムで紹介させていただきました。
個人的に勉強になったこととして、まず、一般的に展示会では『試食』という方法そのものが「仕組み」として機能すると考えられます。しかし、そこからもう一歩踏み込んで、『どうしたらもっと気軽に試食してもらえるのか』まで検討することも必要だという視点に気付きました。これは試食以外の集客コンテンツに言えることかと思います。集客のために、何か “ブース内で来場者の興味を惹くことを実施する” ということで完結するのではなく、さらに、興味をひいた後、どうしたら行動を変えてもらえるのか(=ブースへ立ち寄ってもらえるのか)まで設計しておくと、より有効な方策へとブラッシュアップできるのではないでしょうか。
また、理由の②として挙げた内容についても、展示会で使える考え方ではないかと思います。来場者には、売込みされたくない、という心理がありますので、出展者から一方的に「何かしてもらう」形式の仕掛けに対しては、警戒心が上がってしまいます。論文内にも書かれていますが、人には『返報性の原理』と呼ばれる「他人から何か施しを受けた場合に、お返しをしなければ、と感じる心理」があります。ですので、仕掛けの内容によっては、そんなつもりがなくても、来場者側は余計なプレッシャーを感じてしまうかもしれません。(もちろんそうじゃない人も居るかと思いますが)
理由③に挙げた点に関しては、前回コラムでも紹介した「社会的文脈」の心理的トリガ―として参考になるかと思います。路上ライブの投げ銭等で、最初に自分で小銭やお札を入れておく人も居ます。こうすることで、お客さんの投げ銭への心理的ハードルを下げるのも、同様の効果を狙った工夫ですよね。ちょっとズルな気もしますが、その程度のことでお客様の抵抗感を減らせるのであれば、取り入れてみるのも良いかと思います。
その他にも参考になる内容が沢山ありましたので、是非本文も読んでみてください。また、仕掛学研究会HP(https://www.shikakeology.org/)の方にも、研究会で発表された論文がいくつか紹介されていました。様々な趣向を凝らした仕掛けの実例が見られますので、ご興味ありましたら覗いてみてはいかがでしょうか。
展示会で集客というと、お金をかけて色々準備しないと難しいのかな、と思ってしまうこともありますが、今回ご紹介した実験では、爪楊枝アンケートを使うだけで試食率が2倍程度に向上する、という結果も出ています。小さなアイデアで大きな効果を出せる「仕掛け」の考え方、取り入れていきたいところです。ちなみに、弊社の理念は『「小さなスペースでも成果は出せる。」を証明する』。理想とするところは近いのかな、と思いましたので、今後も引き続き、勉強していきたいと思います。
ブース装飾プランナー Y.K